2017年1月23日月曜日

ポールがYesterdayにかけた魔法 冒頭の3度抜きのコード。

Editor : Yosuke Hayashimoto

希代の名曲、Yesterday。
美しく流麗ながらもどこか虚無的で淡々と紡がれるメロディー。

ポールの名作バラードは数あれど、Yesterdayはある種の孤高感すら感じさせてくれます。


今回はYesterdayが放つそんな雰囲気の理由をイントロと歌いだしのコードやメロディーに注目して解析して見たいと思います。
この曲では工夫に満ちたアコースティックギターのアプローチを聴くことができます。
複雑なコード進行やラインであってもコードフォームシンプルに再構築することで、簡単な指使いでありながらメロディックで多層的な伴奏がくみ上げられています。
こうしたアプローチはポールなれではでBlackbirdなどもいい例ですね。

この曲の冒頭部分ではそんなポールの引き算のアプローチが曲に非常に大きな効果をもたらしています。


この部分のコードはFメジャー。
しかし録音ではポールはこのGのコードの変形を弾いています。
チューニングが一音下げなのでGのフォームでFの音が出ます。

注目すべきは2弦が開放でなく3フレット、本来のGのフォームで押さえる5弦2フレットが押さえずにミュート、というフォームになっているのです。




このフォームで鳴る音を確認していくと、以下のようになります。
1弦 F
2弦 C
3弦 F
4弦 ミュート
5弦 ミュート
6弦 F

鳴っている音はFとC、ルートと5度の音だけです。
すなわちコードのメジャー/マイナーを決定する3度のAの音が省かれているわけです。
それ故にこのコードは3度がもたらす音の広がりがなく、明るい暗いもない響きとなっています。
この本来あるべきハーモニーの広がりを断ったコードがYesterdayの虚無感、淡々とした雰囲気を生み出しているのです。

また歌い出しのメロディー、♪YesterdayはGからFという音階です。
GはコードFに対しての9thの音。
9thはここでは鳴らされていないのでコードトーン外の音となる訳です。
コードトーン外からメロディーが始まることで生まれる緊張感がバックのコードの無機質感をさらに浮き彫りにしているように思います。

こちらは珍しいバンドバージョンでのYesterdayのライブ。
イントロは普通のレギュラーチューニングのギターでFのコードフォームで弾かれています。
3度の音が入っているのでふんわりというかCDで聴き慣れたYesterdayとはずいぶん違う明るい雰囲気を感じてもらえると思います。

ジョンが嫉妬したというほどの注目を浴びたポール屈指の作品。
こうして聴くと本来この曲はずいぶん穏やかなポール節のメロディーなんですね。
I Willと近いような感じさえします。
重く孤高に響くバラードに生まれ変わらせたのはイントロの3度抜きのコード。
それはポールがこの曲にかけた魔法のように思います。

ライブバージョン


スタジオバージョン